ここ数年、内装の打ち合わせで「グレージュ」「くすんだ緑」「マットな木目」を選ばれる方が目立って増えています。 流行だから、というだけではなさそうです。スマホやパソコンから鮮やかな色が一日中流れ込んでくる今、家に帰ったときくらい目と心を休めたい──そんな気持ちが、落ち着いた色を選ばせているのかもしれません。この記事では、アースカラーが選ばれる背景にある心理と、流行に振り回されない色の選び方を整理します。
この記事でわかること
- グレージュ・アースカラーが選ばれるようになった背景
- 「刺激の少ない色」が心に働きかけると言われる理由
- 流行に流されず、自分の暮らしに合う色を見つける考え方
一日に見る色の数を数えたことはありますか?

朝起きてスマホを見ると、赤い通知バッジ、色とりどりのアプリのアイコン、動画のサムネイル。通勤の途中には看板やデジタルサイネージ。仕事ではパソコンの画面。夜はテレビと、またスマホ。
ひと昔前と比べて、私たちが一日に目にする「鮮やかな色」の量は、比べものにならないほど増えています。鮮やかな色は目を引くために作られているので、見るたびに少しずつ注意力を使っています。夕方になると、なんとなく目が疲れている、頭がざわざわする──それは色の刺激の積み重ねも一因かもしれません。
そんな一日の終わりに帰る家の壁が、真っ白でまぶしかったり、原色のアクセントが目に飛び込んできたりすると、心はなかなか休まりません。「家ではもう刺激はいらない」という無意識の声が、グレージュやアースカラーを選ばせているのではないか。私たちは打ち合わせの場で、そんな印象を持っています。
アースカラーとは?──土・木・石の色

アースカラーとは、土(ブラウン・テラコッタ)、砂(ベージュ・サンド)、草木(オリーブ・モスグリーン)、石(グレー・グレージュ)など、自然の素材そのものが持つ色の総称です。グレージュは「グレー+ベージュ」の造語で、その中でもとくに人気の高い色です。
共通しているのは、鮮やかさ(彩度)が低く、どこか「くすんだ」印象があること。海外の心理学の研究では、色そのものよりも彩度や明るさのほうが気分の動きに関わるという報告があり、彩度の低い色は気持ちを鎮める方向に働きやすいと言われています。アースカラーが「落ち着く」と感じられるのは、この性質によるところが大きそうです。
また、自然の風景を見ると心が回復しやすいという研究もあります。土や木や石の色は、私たちが長い時間をかけて「安心できる環境」として覚えてきた色だと考えると、家の中にアースカラーを取り入れたくなるのも自然なことかもしれません。
※ 彩度・明度の考え方は寝室の色はどう選ぶ?で詳しくご紹介しています。
「マット」が選ばれる理由も同じ
色だけでなく、質感でも同じことが起きています。ツヤのある鏡面仕上げより、光を柔らかく吸うマットな仕上げ。塗り壁のようなざらっとした表情。木目も、つるっとした光沢のあるものより、手触りが想像できるような素材感のあるものが選ばれています。
これも、光の反射という「刺激」を減らしたい気持ちの表れと考えると、つじつまが合います。テカテカしたスマホ画面を一日中見ていた目には、光を吸い込んでくれる壁や床のほうが、やさしく感じられるのでしょう。
キッチンにグレージュが増えているわけ
キッチンは、家の中でいちばん「もの」が多い場所です。調味料、家電、食器、食材。それぞれのパッケージは目立つように作られていますから、キッチンは放っておくと色の情報でいっぱいになります。
そこにキッチン本体の色まで主張が強いと、空間はますますにぎやかになります。ベースをグレージュや木目にしておくと、ものの多さが目立ちにくく、片付いて見えやすい。キッチンでアースカラーが選ばれるのには、こうした実用的な理由もあります。
造作家具や建具の色決めでも同じことが言えます。長く使うものほど、主張の少ない色にしておくと飽きにくく、暮らしの中で増えていくものと喧嘩しにくくなります。
流行に「乗る」のではなく「理由を知って選ぶ」
ここで大切にしたいのは、「今はグレージュが流行っているから」という理由で選ばないことです。流行の色は数年で移り変わりますが、家の壁や床は10年、20年と付き合うものです。
私たちがおすすめしたいのは、「なぜ自分はこの色に惹かれるのか」を一度考えてみることです。
- 一日中画面を見ていて、家では目を休めたい → 彩度の低いアースカラー・マットな質感が合いやすい
- 家で過ごす時間は短く、帰ったら気分を上げたい → ベースは落ち着かせて、アクセントで好きな色を
- 家族で好みが分かれる → 大きな面積は誰もが受け入れられるニュートラルな色に、個性は小物や布で
こうして理由から考えると、流行が変わっても「自分たちの家はこれでよかった」と思える色にたどり着きやすくなります。色に正解はありません。あるのは、暮らし方との相性だけです。
色は「明かり」とセットで見る
アースカラーは、明かりによって表情が大きく変わる色でもあります。グレージュは昼の白い光の下ではグレーに、夜の電球色の下ではベージュに寄って見えます。サンプルで色を確かめるときは、昼と夜の両方の明かりで見てみてください。
照明との関係は明かりの色でくつろぎは変わる?で整理しています。また、色が部屋の広さの感じ方に与える影響は部屋を広く見せる色とは?をご覧ください。
長野住環境企画の考え方
私たちは、色を「今の流行はこれです」と提案することはしません。まず、どんな一日を過ごしていて、家に帰ったときにどんな気持ちになりたいのかをうかがいます。そのうえで、色・質感・明かりを一緒に考えます。
打ち合わせでは、大きめのサンプルを実際の光の下で見ていただくことを大切にしています。小さなチップで「いい色」と思っても、壁一面に広がると印象が変わることがあるからです。社内には建築の有資格者が在籍しています。色のことも、間取りのことも、遠慮なくご相談ください。
よくあるご質問
Q. グレージュは飽きませんか?
A. 彩度が低く主張の少ない色なので、一般的には飽きにくいと言われています。ただ、部屋全体が同じ色だと単調に感じる方もいます。木目や布、植物など、素材の違いで変化をつけると長く楽しみやすくなります。
Q. アースカラーにすると部屋が暗くなりませんか?
A. 濃いブラウンやオリーブを広い面積に使うと暗く感じることがあります。壁は明るめのベージュやグレージュにして、濃い色は床や家具、一面のアクセントにとどめると、落ち着きと明るさを両立しやすくなります。
Q. 今の家の壁が白いのですが、塗り替えずに落ち着いた雰囲気にできますか?
A. できます。カーテン・ラグ・ソファカバーなど面積の大きい布ものをアースカラーにそろえるだけでも、印象は大きく変わります。照明を電球色に替えるのも効果的です。
Q. 流行が終わったら古く見えませんか?
A. 自然の素材の色は、流行の前から長く使われてきた色です。「流行だから」ではなく「自分たちが落ち着くから」という理由で選んだ色は、流行が変わっても古びにくいと私たちは考えています。
間取り相談のご案内
長野住環境企画では、心理と間取りをテーマにした「間取り相談」(完全予約制・無料)をご用意しています。内装の色や質感、明かりのことも含めて、「どんな住まいなら家族の心が休まるか」を一緒に考えてみませんか。営業目的の相談会ではありませんので、安心してご参加ください。
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参考文献
本記事でふれた「彩度と気分」「自然の色と心の回復」などは、以下の研究を参考にしています。
- Valdez, P., & Mehrabian, A. (1994). Effects of color on emotions. Journal of Experimental Psychology: General, 123(4), 394–409.
- Ulrich, R. S. (1984). View through a window may influence recovery from surgery. Science, 224(4647), 420–421.
- Kaplan, S. (1995). The restorative benefits of nature: Toward an integrative framework. Journal of Environmental Psychology, 15(3), 169–182.
- Küller, R., Ballal, S., Laike, T., Mikellides, B., & Tonello, G. (2006). The impact of light and colour on psychological mood. Ergonomics, 49(14), 1496–1507.
※ 色の感じ方には個人差があり、上記は傾向を示す研究です。効果を保証するものではありません。
「色と心理」シリーズ
本記事は、住まいの色と光が心と暮らしに与える影響をお伝えするシリーズの記事です。あわせてご覧ください。